境界いろいろ

6/16は境界について話します。そのさわり
筒状の場所、井戸、トンネル
1. 村上春樹は「ねじまき鳥クロニクル」の井戸の底を超越した世界への入口とした。主人公の僕(岡田亨)は、飼っていた猫の失踪から妻クミコとの関係が狂いだし、クミコは消えてしまう。僕は近在の今は空家の庭先にある枯れた古井戸の中で、時空を超えてクミコと心を通わせる。閉ざされた暗い空間である井戸の内部が別の世界への入口であった。
2. 「ドラえもん」ではドラえもんとかノビタが次元の違う空間に移動するとき何か筒状の中を進んでいるように思われる。そして違う空間に出るときの出口は決まって筒の形をしていて丸い穴として表現されている。もっとも「どこでもドア」のようにあからさまに異空間に入り込める道具もあるようだが…
3. トンネルの向こう側が日常とは違う世界であるとは川端康成の「伊豆の踊り子」では、天城トンネルで踊り子の薫に出会い、孤児根性で歪んだ自分とは違う世界へ行く。「雪国」では島村が国境の長いトンネルをこえ、雪深い駅のシーンから始まっている。長いトンネルを越えて日常を離れ、駒子と再会する。トンネルの向こうは島村にとって別の世界なのだ。
4. 宮崎駿の「となりのトトロ」でメイは穴のあいたバケツ(筒状の暗闇の向こうに明るい世界がのぞき見える)で小トトロを発見し、家の床下追いつめる。
―ついでに言えば、家の床下もまた妖怪や魑魅魍魎の徘徊する世界として知られている「仮ぐらしのアリエッティ」も床下が舞台だ―
メイは引っ越しを試みているのか風呂敷を背負った小トトロと雑草の庭で追いかけっこを展開し、あげくの果てに草のトンネルをくぐりぬけることになるのだ。そして鎮守の森の大楠木の根元にある洞を転げ落ちて大トトロの休む壺の中のような空間に至るのである。
5. 「千と千尋の神隠し」の冒頭、アウディに乗って新しい郊外の家に向かう途中、道を逸れてしまい朽ちかけた神社のわきなどを通りながら、猪突猛進型のお父さんが車で突き進んだ先はテーマパークの残骸の入口であった。その入り口はまるでトンネルの口のように建物に穿たれていた。千尋の家族は建物(トンネル)をくぐって別世界に行ってしまうのであった。
天空の城ラピュタ」鉱山の垂直の穴は地底の別世界に通じていた。

1. 永井荷風『濹東綺譚』で主人公大江は隅田川にかかる橋を渡って、私娼窟である玉ノ井の迷宮の中でお雪のもとに通う。橋の向こうの異界の話なので「濹東綺譚」の名がある。
2. 宮崎駿の「千と千尋の神隠し」では、「油屋」の入口に至る橋がある。そこを渡ることは、明確に違う空間に入り込むこと意味している。千尋はその橋でハクと出会う。また物語の終わりも橋でのイベントであった。
3. 神社の入口には象徴的な橋がある。
階段
1. 神社の拝殿と本殿の間にはたいてい階段がある。階段を上った床上が神の座所とされる。
2. 村上春樹の「1Q84」で、青豆が月の二つ見える違う世界に行ってしまうのは、高速道路の非常階段を降りてからである。